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焼跡から生きぬいてきた私 其の2 [焼跡から生きぬいてきた私]

 昭和20年8月6日の朝です。よく晴れていました。朝5時に起きて朝の仕度をはじめると妹が起きてきました。米が3合ありましたのでおかゆにたくのです。出来たら水を入れ、また水を足しながら煮るのです。前の日に子供を連れて取って来た野草を小さくきざみ量をふやすのです。当時は塩がないので梅じそを小さくきざみそれをつけて食べました。
 私はリヤカーを出し箱を積み、配給を取りに行く日でしたので、仕たくをすませて家に入ると警戒警報が解除になったのです。私は主人の厚司で上衣とモンペをぬっていました。ぶ厚い布なので少々のことでやぶれるような布ではありません。上衣を2枚、モンペ2枚足袋をはき地下足袋をはいていました。汗が流れるので頭を手拭でくくり、その上から綿入れの防空頭巾をかぶり、手袋をしていました。リヤカーのついた自転車に乗って当時、広島県立第2中学校、現在の観音小学校のところにさしかかりました。そこには大きなポプラの木が並び道路に面した所だけ家がありました。裏の方は皆畠でした。其の時ゴオーというものすごい大きな音がしたので、ふりむくと、まるでうす茶色の山のようなものがおおいかぶさって来ましたので、すぐ前にむきましたが、そのまま私はどうなったのかわかりません。気がついた時はもう夕方でした。
 福島川の観音町よりの土手に、かきがらがたくさん積んでありました。私はそこにいました。起きようとして顔に手をあてると、右のほほがこんにゃくのような感じで腫れあがっているのです。目じりも少し切れていました。左の手のひじも切れていました。だれかが手拭で腕をしばってくれていました。まわりの人もみんなばけものの様でした。片袖がなくなっていました。太陽が西の山に沈みかけていました。
 私はほほを両手でおさえて立ちました。
 私は夢遊病者のように歩きはじめました。早く家に帰りたいと思い福島川に下りました。川砂の上の人は皆んなふさったり、あおむけになったりしておられました。その時川原でねている子供を見て自分にかえりました。どのようにして家までたどりついたのかおぼえていません。日が暮れても帰ってこないので母や妹が心配したそうです。
 私が家の前まで帰った時、近所の人が妹にしらせて下さったのですが、一寸見てちがうようなので帰りかけて、もう一どよく見ると厚司布なので私だということがわかりました。妹はすぐ私を連れて畠の中にねかしました。
 実家はもう焼け落ちていました。井戸水で妹は顔を冷やしてくれたそうです。子供はおそれて私のそばにはよりつかなかったと言っていました。
 住むところもないので畑の中で三日三晩野宿をしました。5日目、母が「どうでも玖村の方へ向いて逃げよう」と言うのです。
 子供をつれて歩いていたものの、道はなし、橋はなし、泣く子の手をひいて玖村にやっと着きました。たよっていった先はお寺で親戚でした。他の家族もおられるし、こちらは子供がたくさんいるので、気がねでした。
 戸河内へ疎開していた姉が米2升持ってきてくれました。
 その日四男が血便を出したので、私はおどろきました。四男は初めは泣いていましたがしだいに静かになって眠るばかりです。私は夕方太田川のほとりに連れていきました。
 この子はもうだめなのだろうか、なんとか生きていてほしい「もしもこの子が死んだらせめて私の手で焼いて葬ってやりたい」と泣きながら川のほとりを半気違いのように暗くなるまで歩いていました。泣く泣くお寺に帰る道で、近所の人に出合いました。その家の子供さんが死なれて、いらなくなった注射を私に下さるというので、その人の家についていきました。そこの男の人が四男に注射をして下さいました。
 血便はまだ出ていましたが、朝になってみると目をあけてキョロキョロしています。「助かった」と思い私はうれしくて何かお礼を、と思いましたがなんにもないので口のお礼だけでもと思い、子供を抱いてお礼にいきました。「こんなにいいのなら」と言って1本のこっていた注射をまた打って下さいました。
 それから近所の人が「市外に出ている人は早く広島市内に帰らないと配給がもらえなくなります。」と言ってこられたので一晩泊まっただけで又母と妹と子供を連れて中広へ帰って来ました。住むところもないし焼野原です。風呂場に焼のこりの柱をさしかけて焼トタンを上において寝る所を作りました。その晩大風が吹いて朝明るくなって見ると、トタンが風にとばされてなくなっていました。子供を起こして、「早く拾い集めないと人に拾っていかれる」と言って集めさせました。


其の3(完)に続く
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